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意外と知られていない利益相反取引とは?

監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表

東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。

東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。

会社を経営する際には、会社と取締役との間の利益相反取引について制限があることを知っておく必要があります。ここでは、利益相反取引とはどのような取引かについて説明します。利益相反取引の意味を理解したうえで、取引を行う際に必要な手続きを知っておきましょう。

利益相反とはどういう意味?

利益相反とは、一方にとっては利益になるけれど、他方にとっては不利益になるという意味です。世の中誰にとっても利益になることばかりではないですから、利益相反が起こるのは当たり前と言えば当たり前のことです。その当たり前の利益相反がなぜ問題になるかと言えば、1人の人が2つの役割を持つ場合があるからです。

たとえば、誰かから依頼を受けて代理で何かをするとき、依頼した側にとっては利益になるけれど、依頼を受けた側にとっては不利益になるという場合があります。このような場合には、代理人となった人は頼まれたことを中立の立場で行うのが難しくなってしまいますので、利益が相反する事項をどうやって処理するかという基準が必要になります。

会社の利益相反取引とは?

会社と取締役との間で利益相反が起こり得る

上記のような利益相反は、会社においても起こり得ます。株式会社でいう利益相反とは、「会社」と「取締役」との利害が相反することです。

会社は、「法人」として法律上の人格を与えられています。ですが、会社は人間のように自分の意思で行動できるわけではありません。そのため、会社の業務は、執行機関である取締役が行うことになります。

ここで、取締役は会社の執行機関であると同時に一人の人間でもあります。つまり、取締役は「個人」と「会社の執行機関」の2つの役割を持つことになりますから、利益相反の問題が生じることがあるのです。

利益相反取引には株主総会や取締役会の承認が必要

「会社」と「取締役」とは法律上は別人格ですから、会社と取締役とが取引(売買やお金の貸し借りなど)を行う場面というのもあります。ここで、取締役が会社の利益のために行動すれば、自分個人としては不利益になるというケースも出てきますし、逆のケースもあります。利益相反取引とは、このように会社と取締役との利害が相反する取引のことを言います。

たとえば、取締役が会社に自己所有の不動産を売り渡す場合、不動産の売却価格を高く設定してしまうと取締役個人にとっては有利でも会社には不利になってしまいますので、このような取引が利益相反取引に該当することになります。

なお、このような利益相反取引自体を禁止してしまうと不都合が生じることがあります。そこで、会社法では、会社と取締役との間で利益相反取引を行う場合には、株主総会または取締役会の承認を受けることを条件にしています。

取締役会や株式総会の承認が必要なケースとは?

利益相反取引に該当する「直接取引」と「間接取引」

利益相反取引には、直接取引と間接取引という2つの類型があります。

直接取引(会社法第356条1項2号)

直接取引とは、取締役が当事者として会社と取引を行う場合になります。取締役が自己のために取引する場合のほか、他の人の代理人として取引する場合や、他の会社の代表者として取引する場合も含みます。

直接取引に該当するのは、次のようなケースになります。

○取締役と会社との間の売買契約

○会社から取締役への贈与

○取締役から会社への金銭貸付(利息が発生するもの)

○会社が取締役に対して行う債務免除

○会社による取締役を受取人とする手形の振出

間接取引(会社法第356条1項3号)

取締役が当事者として会社と取引をするのではなく、会社が取締役以外の者と取引する際に、会社と取締役との間で利害が相反することになる場合です。

間接取引に該当するのは、次のようなケースになります。

○会社が取締役の第三者に対する債務を保証する行為

○取締役の第三者に対する債務の担保とするため会社の不動産に抵当権を設定する行為

○会社が取締役の第三者に対する債務を引き受ける行為

利益相反取引を行う際の手続き

取締役は、上記のような利益相反取引を行う場合には、取締役会を設置していない会社では株主総会、取締役会を設置している会社では取締役会の承認を受ける必要があります。なお、承認を受ける際には、当該取締役は、当該取引につき重要な事実(会社の利益が損なわれたり、会社が損害を受けたりすることがないかどうかを判断するために必要な事実)を開示しなければなりません。

さらに、取締役会を設置している会社では、利益相反取引をした取締役は、当該取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告する義務があります。

承認を得ずに利益相反取引が行われた場合はどうなる?

承認を得ずにした利益相反取引は原則無効

株主総会や取締役会の承認を得ずに行った利益相反取引は、原則として無効となり、その取引の効力が生じません。しかし、それでは何も知らずに取引に関与した第三者にとって気の毒な結果になることがあります。

こうしたことから、第三者の利益保護のため、会社が第三者に対して利益相反取引の無効を主張するときには、その取引が利益相反取引に該当するのに承認を得ていないということをその第三者が知っていたか、あるいは知らなかったことに重大な過失があるという事実を、主張・立証しなければならないとされています。

取締役は会社に対して損害賠償責任を負う

利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、その取引に関与した取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。この場合、当該取引を行った取締役だけでなく、承認決議に賛成した取締役も、過失がなかったことを証明しない限り、任務懈怠として損害賠償責任を負うことになります。

なお、取締役の損害賠償責任は、利益相反取引について株主総会や取締役会の承認を得ていたかどうかにかかわらず発生する点に注意しておく必要があります。

利益相反取引かどうかが判断できない場合には?

利益相反取引に該当しないケース

利益相反に当たるどうかを判断するポイントは、取締役個人にとっては利益になるけれど、会社にとっては不利益にしかならない行為に該当するかどうかです。たとえば、次のような取引は、会社の利益を害するおそれはないため、利益相反取引には当たらず、株主総会や取締役会の承認は不要です。

○取締役から会社への無利息・無担保の金銭貸付

○取締役から会社への無償贈与

○取締役から会社に対する債務免除

○会社と取締役間での相殺

実質的に利益相反にならなければ承認は不要

一人株主など、取締役がその会社の100%株主(オーナー)である場合には、会社の所有者である株主と取締役との間で実質的に利害が相反することはありません。ですから、この場合にも承認は不要です。利益相反取引について、株主全員が同意している場合にも同様です。

よくわからない場合には承認を得ておく

実際には、利益相反取引になるかどうかの判断がつかない場合もあると思います。もし利益相反取引に該当するならば、承認を受けずに取引したら無効となってしまいます。利益相反取引かどうか判断がつかない場合には、念のため承認を得ておいた方が良いでしょう。

会社経営において、利益相反取引という概念をしっかり理解しておくことは重要です。特に、創業して間もない時期には、経営者である取締役と会社との間でお金の貸し借りを行うような場面はよくあると思います。会社と取締役とで取引を行う際には、利益相反取引に該当しないかを考え、必要な手続きを忘れないようにしましょう。


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