遺産相続における寄与分と遺留分の関係
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
遺産相続において、「寄与分」や「遺留分」が主張されることがあります。ここでは、寄与分と遺留分について説明します。遺産相続においては、寄与分と遺留分はどのような関係なのかについても知っておきましょう。
目次
遺産の遺留分は遺言よりも優先される
遺留分とは?
「遺留分」は、相続人が最低限相続可能な財産の割合です。法定相続人のうち、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)には遺留分があり、遺留分をもつ相続人を「遺留分権利者」といいます。
遺留分は、次のようになります。
①直系尊属のみが相続人である場合…遺留分権利者全員で被相続人の財産の3分の1
②①以外の場合…遺留分権利者全員で被相続人の財産の2分の1
たとえば、相続人が被相続人の配偶者と2人の子の計3人である場合には、②のケースになり、各相続人の遺留分は法定相続分に応じて、配偶者4分の1、子は各8分の1となります。
遺留分算定の基礎財産とは?
遺留分を計算するときには、被相続人が相続開始時に持っていた財産(遺贈や死因贈与により処分された財産も含む)だけでなく、一部の生前贈与も含めて考えます。被相続人に負債がある場合には、負債の分は差し引いて計算します。
遺留分の対象となる生前贈与は、原則として相続開始前1年以内にされたものになります。ただし、贈与者・受贈者双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知りながら行った贈与は、1年以上前のものでも対象になります。また、相続人が得た特別受益(結婚・養子縁組のための贈与など特別の利益)も、時期に関係なく対象になります。
さらに、売買など有償行為でも不相当な対価で行われたものは遺留分の対象となります。このように、遺留分の対象となる被相続人の財産を「遺留分算定の基礎財産」といいます。
遺言があっても遺留分減殺請求により取り戻しができる
遺留分は遺留分権利者のために必ず確保されるべきものですから、遺言を書いても、遺留分権利者の遺留分を奪うことはできません。遺留分権利者は、遺言により第三者が自分の遺留分まで取得してしまっている場合には、「遺留分減殺請求」を行って自らの遺留分の返還を要求できます。
ただし、遺留分というのは遺留分減殺請求を行って取り戻しができるという権利なので、遺留分減殺請求がされなければ、遺留分を侵害する遺言も有効になります。
相続人に寄与分が認められる場合がある
寄与分とは?
法定相続の場合、各相続人が相続できる財産の割合は、法定相続分として定められています。しかし、相続人の中に被相続人の財産の維持や増加に特に貢献した人がいる場合には、法定相続どおりにしても不公平感があります。
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した人が、本来の相続分を超えて取得できる取り分です。
寄与分の要件
民法では、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」に寄与分が認められるとされています(904条の2第1項)。
寄与分が認められるには、「特別の寄与」により「財産の維持又は増加」があったことが要件になります。
寄与分が認められるケースは?
たとえば、単に被相続人の事業を手伝っていただけでは「特別の寄与」にはならず、ほぼ無給で手伝って事業の発展に貢献したような場合に、寄与分が認められる可能性があります。また、夫婦、親子、兄弟姉妹などは元々相互に扶養義務がありますから、被相続人と同居して生活の面倒をみていた、介護を行っていたというだけでは、通常寄与分は認められません。
さらに、被相続人に貢献しても、「財産の維持又は増加」がなければ、寄与分とはなりません。精神的なサポートのみで、財産的な効果が生じていなければ、寄与分としては評価されないことになります。
寄与分の決め方
寄与分は、原則として、共同相続人の協議で決めるものとされています(904条の2第1項)。寄与分を認めてほしい相続人は、遺産分割協議で寄与分を主張し、他の相続人全員の同意を得る必要があります。
遺産分割協議により寄与分が決まらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判で、解決を図ることになります。
寄与分と遺留分の関係
寄与分と遺留分が衝突するケースとは?
寄与分があると思われる相続人がいる場合に、その相続人の寄与分が、他の相続人の遺留分と衝突するケースがあります。
たとえば、被相続人の長男、次男の2人が相続人である例で、長男が被相続人の事業を献身的に手伝っていた場合、長男の寄与分を認めると、次男の遺留分を侵害してしまうことがあります。
寄与分を控除して遺留分を算出することは可能?
上記の例で、遺留分を算出するときに、最初から長男の寄与分を控除しておけば、長男の寄与分を確保できます。しかし、遺留分算定の基礎財産には、寄与分は含まれていません。寄与分を控除して遺留分を算出することは不可能です。
寄与分は遺留分よりも必ず優先されるものではありません。上記の例で、長男の寄与分を先に確保しておくことはできないということです。
遺留分減殺請求に対して寄与分を主張できる?
上記の例で、被相続人が長男に全財産を譲る旨の遺言を残していた場合、次男が遺留分減殺請求をすれば、長男は寄与分を主張して反論できるかという問題があります。
遺留分減殺請求に対して寄与分を主張できるかについて、裁判例(東京高判平成3年7月30日)では、寄与分を主張することはできないとされています。
その理由として、寄与分は相続人間の協議で決めるもので、相続人協議が調わない場合には家庭裁判所が審判により定めるものであることが述べられています。寄与分は、訴訟において反論に使えるような性質のものではないとされているのです。
遺留分を侵害する寄与分は認められる?
寄与分を決めるときに、他の相続人の遺留分を侵害してしまう形で決めてしまってもいいのかという問題があります。
寄与分は、原則として、遺産分割協議で決めるものです。遺産分割協議では、寄与分の有無に関係なく、遺留分を侵害する遺産分割も、相続人全員の合意がある限り有効です。他の相続人の遺留分を超えて寄与分を認めても、全く問題はないということです。家庭裁判所の遺産分割調停を利用する場合にも、話し合いであることには変わりありませんから、基本的には同様になります。
家庭裁判所が遺産分割審判を行う場合については、寄与分は、「遺留分によって当然に制限されるものではない」という裁判例(東京高決平成3年12月24日)があり、遺留分を侵害する寄与分を認定すること自体は可能と考えられています。
ただし、同裁判例では、「寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならない」としています。家庭裁判所の遺産分割審判で寄与分を決めるときには、相続人の遺留分を考慮して、慎重に行わなければならないということです。
遺産相続が発生した後、相続人が寄与分や遺留分を主張し、遺産分割がスムーズにできないケースはよくあります。相続発生後のトラブルを予防するためには、生前に遺言書を作成しておくのが有効です。
遺言書を作成しておけば、相続人の遺留分を考慮したうえで、特に貢献があった相続人に財産を多く取得させることも可能になります。
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