カテゴリー：相続Q&A

【異母兄弟との相続】連絡方法とトラブルを防ぐ遺産分割の進め方を司法書士が解説

監修
司法書士速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所代表

東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。自身の経験から、相続や借金に関する問題の困難さとその解決の重要性を深く理解しており、依頼者の不安に寄り添った丁寧なサポートを信条としている。

プロフィール▼

父親の相続では、自分を含む兄弟全員が相続人となります。兄弟とは、一緒に育った兄弟だけとは限りません。異母兄弟がいる場合には、その異母兄弟も相続人になります。

私自身、父親の相続で突然、腹違いの姉（異母兄弟）の存在を知るという経験をしました。その時、「まずどう連絡すればいいのか」「相手はどんな感情を抱いているのか」という法律上の手続き以上にデリケートな問題に直面しました。

そこで今回は、異母兄弟がいる場合の相続について、実務家かつ当事者の視点から解説します。相続の連絡をする際の注意点や遺産分割の進め方を知っておきましょう！

【動画で見る】司法書士が解説！異母兄弟が相続人になるケースと円満解決のポイント

このコラムで解説する「相続の落とし穴」と「トラブルを防ぐ具体的な進め方」を、まずは動画でサクッと確認しませんか？連絡の初動から、行方不明時の対処法まで、専門家が全ステップを分かりやすく解説しています。

最初の連絡の壁の乗り越え方：面識のない異母兄弟への初動が、その後の協議を左右します。最初の手紙の書き方一つで、円満な解決か泥沼化かが決まります。

「平等な権利」という現実への対処：異母兄弟には相続放棄を強制できません。彼らが権利を主張したとき、現在の家族の希望と法的な平等を両立させ、協議をまとめるための具体的な手法が必要です。

連絡不能・行方不明時の解決策：相手が連絡を無視したり、行方不明の場合でも、手続きを停滞させたままにはできません。家庭裁判所の手続きを活用し、法的に解決へと進める方法が存在します。

当事務所では、『異母兄弟が相続人にいて、手続きををどう進めたらいいのか分からない！』といった相続人からのご相談をお受けしています！

1 ⚠️ 父親の相続で注意すべき「異母兄弟」の範囲
2 🕵️ 異母兄弟の連絡先の調べ方と注意点
3 ✉️ 異母兄弟への手紙の書き方（不信感を避ける初動）
4 ⚖️ 遺産分割協議の進め方とトラブル対処法
5 📜 父親が遺言書を残している場合の注意点
6 🤝 まとめ

⚠️ 父親の相続で注意すべき「異母兄弟」の範囲

亡くなった父親の子供は全員が法定相続人となります。これは、婚姻関係の有無や生前の交流の有無に関わらず平等です。

相続人となる異母兄弟の種類

前妻の子：離婚・死別後も親子関係は変わらないため、相続権があります。前妻は相続人にはなりません。
認知された子（愛人の子）：父親が認知している場合、婚姻関係にある夫婦の子（嫡出子）と相続分は同じです。（法改正により2013年9月5日以降に開始した相続については平等）
養子縁組した連れ子：養子は実子と同様の相続権を持ちます。離婚後も養子縁組を解消（離縁）していなければ相続権があります。
代襲相続人：異母兄弟が父親よりも先に亡くなっている場合、その異母兄弟の子（父親の孫）が代襲相続により相続人となります。

🕵️ 異母兄弟の連絡先の調べ方と注意点

相続手続きの前提として、父親の出生から死亡までの戸籍謄本を集める相続人調査が必要です。

戸籍調査で異母兄弟の有無を確認

父親の連続した戸籍を集めれば、過去の婚姻歴、離婚歴、認知した子供の有無が確認できます。

住所の突き止め方

父親の戸籍から異母兄弟の本籍地が判明すれば、その戸籍の附票を取得することで、原則として現住所を調べることができます。

実務家からのアドバイス

この戸籍調査の過程で、あなたが認識していなかった異母兄弟が判明することは珍しくありません。私自身、腹違いの姉の存在をこの調査で初めて知りました。想定外の相続人が見つかった場合、まずは冷静に専門家へ相談することをおすすめします。

当事務所では、『異母兄弟が相続人にいて、手続きををどう進めたらいいのか分からない！』といった相続人からのご相談をお受けしています！

✉️ 異母兄弟への手紙の書き方（不信感を避ける初動）

面識のない異母兄弟には、いきなり訪問せず、まずは手紙で誠意をもって連絡すべきです。

【手紙に必ず含めるべき内容】

項目	記載すべき内容	配慮すべき点
身元	自分の氏名、亡くなった父親の子であること。	相手に不審がられないよう、身元を明確に。
訃報と状況	父親が亡くなった日付、及び差し支えない範囲での経緯。	突然の連絡であることへの配慮を示す。
遺産の概要	プラス財産とマイナス財産（負債）の概要。	相手が相続するかどうか判断できるよう情報を提供する。
住所を知った経緯	相続手続きのため、戸籍を辿って調べた旨を説明。	「どうやって調べた？」という警戒心を解く。
協力の依頼	最初から遺産分割案を提示せず、まずは相続手続きに協力してほしい旨を伝える。	相手の反感を買わないよう、丁寧な言葉遣いを徹底する。
連絡先や返信期限	こちらの連絡先の電話番号等を書いて、いつまでに連絡がほしいかを書く。	相続放棄や相続税申告の期限が迫っている場合には、その旨を書いて早めに回答をもらえるようお願いする。

速水司法書士の経験から

面識のない相手への初動は、非常に重要です。手紙は、相手の感情を尊重し、「敵意がない」ことを伝えるツールです。丁寧な言葉遣いと経緯の説明を徹底することが、その後の協議を円滑にする鍵となります。

⚖️ 遺産分割協議の進め方とトラブル対処法

異母兄弟が相続手続きに協力する場合、全員で遺産分割協議を行います。

協議の基本原則と注意点

相続権は平等：異母兄弟も現在の家族と全く平等な相続権を持ちます。相続放棄を強制することはできません。トラブルを避けるため、相手の権利を尊重し、専門家の知恵（代償分割の提案など）を活用することが重要です。
専門家へ依頼：面識のない相手に個人で連絡するより、司法書士などの専門家が中立な立場で間に入った方が、相手も応答が得られ、協議がスムーズに進む可能性が高まります。

連絡を無視・拒否された場合の対処法

相手がどうしても協議に応じてくれない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決します。調停は、相手方の同意なしに申立人が単独で開始できる法的手続きです。家庭裁判所の調停委員が双方の主張を聞き取り、解決案を提示することで合意形成を目指します。

調停が不成立に終わった場合でも、自動的に審判（裁判官が最終的な判断を下す手続き）へ移行するため、異母兄弟が話し合いを拒否し続けても、手続きが停滞することなく最終的な解決に至ります。

遺産分割調停のわかりやすい流れ

連絡不能・行方不明の場合の対処法

住所を調べても異母兄弟が行方不明の場合、そのままでは遺産分割協議ができないため、以下の手続きが必要です。

不在者財産管理人の選任

行方不明の人の代わりに財産を管理する不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらいます。管理人は、行方不明の異母兄弟の利益を保護する立場で協議に参加するため、異母兄弟には法定相続分相当の財産を確保する必要があります。

知っておきたいポイント

異母兄弟が行方不明になってから7年未満で、かつ、遺産分割を急ぎたい場合に利用されます。

失踪宣告の申し立て

異母兄弟が7年以上行方不明の場合、失踪宣告を申し立てることで、法律上死亡したものと見なされ、相続人から除外できます。ただし、手続きに時間がかかり、家庭裁判所の厳格な審査が必要です。

知っておきたいポイント

異母兄弟が長期にわたり行方不明で、相続人としての権利自体を消滅させたい場合に利用されます。

不在者財産管理人とは？申立方法とかかる費用、失踪宣告の手続きについて

📜 父親が遺言書を残している場合の注意点

亡くなった父親が遺言書を残していた場合、相続手続きにおいては遺言の内容が最優先されます。

たとえば、遺言書に「今の家族だけに財産を相続させる」と書かれていた場合、原則として異母兄弟と遺産分割協議をする必要はなく、遺言に従って手続きを進めることができます。亡くなった父親が遺言書を残していた場合、相続手続きにおいては遺言の内容が最優先されます。

遺留分侵害額請求のリスクに注意

ただし、たとえ遺言書があっても、異母兄弟には遺留分（民法で保障された最低限の遺産の取り分）が認められています。
遺言によってこの遺留分が侵害されている場合、異母兄弟は遺留分侵害額請求として、遺留分に相当する金銭の支払いを請求してくる可能性があります。
・連絡の義務：法律上、異母兄弟に対し、父親が亡くなった事実や遺言書の存在を必ず知らせる義務はありません。
・請求への対応：しかし、異母兄弟が自ら情報を入手し、請求をしてきた場合、原則として金銭を支払う義務が生じます。
このリスクに備え、遺言書の内容を確認した段階で、遺留分を請求された場合の金銭的な準備をしておくことが賢明です。