相続時に限定承認を行うメリットとデメリット
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
相続の際には、財産だけでなく借金などの債務も引き継ぐのが原則となっていますので、相続人は亡くなった人の借金を背負ってしまうことがあります。相続時に限定承認を行えば、借金の負担を引き継がずにすみます。
ここでは、相続時に限定承認を行うメリットとデメリットについて解説します。
目次
限定承認は資産の範囲内で負債を承継する方法
相続方法は3つある
相続の際には、単純承認、限定承認、相続放棄という3つの相続方法のうちから希望する方法を選べるようになっています。単純承認とは、原則的な相続方法で、亡くなった人(被相続人)の残した資産(プラスの財産)も負債(マイナスの財産)もすべて承継することです。
これに対し、相続放棄とは、資産も負債も一切承継せず、相続人としての立場を放棄することです。もう1つの相続方法である限定承認は、選択されるケースが少ないため、ご存じのない方も多いと思います。限定承認は、単純承認や相続放棄のデメリットを解消できる方法ともいえるため、特に被相続人が財産と借金の両方を残している場合には、検討の余地があります。
限定承認とは
限定承認とは、被相続人の残したプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継するという相続方法です。限定承認を選択すれば、トータルでマイナスの財産の方が上回った場合にも、相続人が自分の財産からマイナス分を支払う必要はありません。
なお、被相続人の残した債務を返済して余ったプラス分の財産については、相続人全員で遺産分割協議を行って分けることができます。
限定承認の手続きの流れ
限定承認をする場合には、相続人全員で共同して、家庭裁判所に「限定承認の申述」を行う必要があります。なお、限定承認の手続きはこれで終わりではなく、限定承認の申述が受理された後には、相続財産の清算手続きが開始することになります。
相続財産の清算手続きを行うために、まず、共同相続人の中から相続財産管理人が選任されます(相続人が1人の場合には、その人が手続きを行います)。相続財産管理人は、限定承認した旨と合わせて、相続債権者や受遺者に請求の申し出をするよう、2ヶ月以上の申出期間を定めて官報公告を行います。
また、わかっている債権者に対しては個別に請求申出の催告も行います。請求申出の公告・催告をした後、相続財産管理人は相続財産を換金して、債権者や受遺者に弁済します。弁済してもなお残余財産がある場合には、相続人全員で遺産分割協議を行ってこれを分けることになります。
限定承認を行うメリットとは?
借金の負担を引き継がなくてすむ
限定承認を選択すれば、被相続人が多額の借金を残している場合にも、相続人が自己の財産を使ってこれを返済する必要がありません。相続財産の内容がよくわからない場合、とりあえず限定承認をしておけば、相続によって借金の負担を背負う心配がなくなります。
プラスの財産が残った場合に相続できる
借金の負担を引き継がない方法としては、相続放棄という選択肢もあります。相続放棄をすれば、最初から相続人でなかった扱いになりますので、プラスの財産の方が多い場合にも、プラス分を相続することができません。
限定承認を選択すれば、被相続人の財産が最終的にプラスになった場合に、プラス分を相続できるというメリットがあります。
自宅を相続できる可能性がある
相続人の中に被相続人の自宅に同居していた人がいる場合、借金があるからといって相続放棄をすれば、自宅を相続できないことになってしまいます。一方、限定承認では、先買権といって相続人が優先的に財産を買い取ることができる制度があります。
自宅を相続したいけれど被相続人の借金は背負いたくないという場合、限定承認をすれば自宅を取得できる可能性があります。
少人数で相続手続きを終わらせることができる
相続放棄を選択する場合、同順位の相続人全員が相続放棄をすると、次順位の人が新たに相続人になります。被相続人の借金を理由に相続放棄をするときには、次順位の人にも連絡して、相続放棄をしてもらわなければなりません。結果として、多くの人が被相続人の借金を知ることになってしまいます。
当初の相続人だけで限定承認の手続きをすれば、次順位の相続人が相続に関与することはありません。そのため、被相続人の借金を多くの人に知られずにすむことになります。
限定承認によるデメリット
相続人全員の意見が一致しないと手続きできない
限定承認をする場合には、相続人全員で家庭裁判所に申述の手続きをする必要があります。相続人の中に1人でも単純承認を選ぶ人がいれば、限定承認をすることはできません。なお、相続人のうち一部の人が相続放棄をした場合には、残りの相続人だけで限定承認をすることができます。
手続きが煩雑
限定承認は相続放棄のように家庭裁判所で申述をすれば終わりというわけではなく、申述が受理された後に相続財産の清算手続きが必要になります。
相続財産の清算手続きでは、官報公告や相続財産の管理・換価、債権者・受遺者への弁済などを行わなければならず、残余財産がある場合には遺産分割もしなければなりません。手続きに手間がかかることも限定承認のデメリットといえます。
みなし譲渡所得税が課税される
限定承認を行った場合には、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して相続財産の譲渡があったものとみなされ、被相続人に譲渡益が発生していれば、みなし譲渡所得税が課税されます。特に、相続財産の中に古くから所有している不動産があれば、時価が上がったとされ、譲渡所得税の課税対象になるケースが多くなります。
被相続人の所得税については、相続人が準確定申告を行って申告・納付する必要があります。準確定申告の期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内となっており、この期限に遅れると延滞税などのペナルティも発生してしまいます。
限定承認は申請期間に注意
相続開始を知った時から3ヶ月以内に申述が必要
限定承認の申述は、相続開始を知った時から3ヶ月以内に行う必要があります。この3ヶ月の期間のことを熟慮期間といいます。熟慮期間内に限定承認または相続放棄の手続きを行わなかった場合、単純承認したものとみなされ、それ以降は限定承認や相続放棄ができなくなってしまいます。
相続開始を知ってから3ヶ月の期間はあっという間ですから、十分注意しておく必要があります。
前もって手続きすれば熟慮期間の延長も可能
相続開始を知った時から3ヶ月以内に、相続財産調査が終わらずどの相続方法を選ぶべきか決められない場合には、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることにより、熟慮期間を延長してもらうことができます。
ただし、熟慮期間の延長の手続きは、最初の熟慮期間が満了する前に行わなければなりません。何も手続きしないまま3ヶ月が経過してしまうと、それ以降はやはり限定承認や相続放棄ができなくなってしまいます。
まとめ
亡くなった方が借金を残している場合には相続放棄という選択肢もありますが、相続放棄をすれば財産も一切相続できなくなってしまいます。限定承認の手続きには手間がかかりますが、限定承認をすることによりメリットが得られるケースもあります。
限定承認や相続放棄ができる期間は限られています。どの相続方法を選んだらよいかわからない場合には、お早めに専門家にご相談ください。
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