相続人が多数いる場合の遺産分割協議の進め方と注意点について
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
相続人が大勢いても、遺産分割協議は相続人全員でしなければならない。
まずは個別に手紙で状況を説明し、『遺産分割協議証明書』や『相続分譲渡証明書』を活用して協議をまとめる。
相続人が多すぎるからといって放置していると様々なデメリットが生じる。
目次
遺産分割協議の大まかな流れ
戸籍謄本などの収集
まずは相続人全員を特定するため、役所で戸籍謄本を集めます。
相続人全員に連絡
相続人全員に遺産分割協議を行う旨の連絡をします。連絡先がわからない相続人がいる場合、役所で戸籍の附票を取れば住所を調べられます。
相続人全員で遺産分割協議
相続人全員で話し合いをします。必ずしも全員が1つの場所に集まる必要はありません。最終的に分割方法に合意さえすればいいので、話し合いは電話や手紙でも大丈夫です。
遺産分割協議書の作成
遺産の分け方が決まれば、『遺産分割協議書』を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印による押印のほか、印鑑証明書の添付が必要です。
相続手続き
不動産の名義変更(相続登記)などの相続手続きは、遺産分割協議書を提出して行います。
遺産分割協議は〝相続人全員の参加〟が必要
相続人が1人でも抜けていればやり直し
遺産分割協議書を作成しても、相続人が1人でも抜けていれば、その遺産分割協議書は受け付けてもらえません。
たとえ相続人の数が多くても、全員に連絡をとる必要があります。話し合いをまとめ、最終的に遺産分割協議書に相続人全員に署名捺印してもらわなければ、相続手続きを進められないのです。
相続人が多人数にのぼるケースとは?
相続人が多い場合、数十人にのぼることもあります。特に、以下のようなケースでは、相続人が多人数になりがちです。
- 『兄弟姉妹』や『甥・姪』が相続人になるケース
- 『二次相続』や『三次相続』が発生しているケース
①『兄弟姉妹』や『甥・姪』が相続人になるケース
亡くなった被相続人に子供も親もいない場合、兄弟姉妹が相続人になります。たとえ兄弟姉妹が亡くなっていても、その子供(甥・姪)が代襲相続します。高齢で亡くなった場合には、兄弟姉妹も既に亡くなっていて、甥・姪を含めた多数の相続人がいることがあります。
②『二次相続』や『三次相続』が発生しているケース
過去の相続の時に遺産分割協議が行われておらず、不動産が先代名義のままのケースがあります。このようなケースでは、過去の相続(一次相続)と今回の相続(二次相続)の両方について遺産分割協議をしなければなりません。一次相続の相続人が亡くなっていれば、その相続人が権利を引き継ぐため、多人数の関与が必要になります。
相続人多数のケースで遺産分割協議を成立させるには?
相続人には『手紙』で状況説明
たとえ電話番号がわかっていても、相続人一人一人に電話をかけるのは労力を要します。電話がつながらないことや、警戒されてしまうこともあるでしょう。
最初は手紙を書いて相続手続きへの協力を依頼するのがおすすめです。特に、疎遠な相続人には状況を説明する必要があるので、文書で整理して伝えるのが効果的です。
『遺産分割協議証明書』を活用
遺産分割協議書は、通常は1通の書面に相続人全員が署名する形式です。遺産分割協議書を郵送でやりとりする場合、1人に送って返送してもらい、また次の相続人に送るという手順を繰り返さなければなりません。ただでさえ時間がかかる上に、途中で破れたり紛失したりすることも考えられます。
こういった場合には、『遺産分割協議証明書』を活用するのがおすすめです。遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議で合意した内容に間違いがないことを、各相続人が証明する書面です。
通常の遺産分割協議書と違い、同じ内容の書面を相続人の人数分作成し、それぞれに相続人が署名捺印します。パソコンで作成したものを人数分プリントアウトして各相続人に発送し、印鑑証明書と一緒に返送してもらえばよいので、手間や時間を省けます。相続手続きの際には、遺産分割協議書と同じように使えます。
【遺産分割協議証明書の記載例】
遺産分割協議証明書
被相続人の氏名 〇 〇 〇 〇
最後の本籍 〇〇市○○町1番2号
死亡年月日 令和〇年〇月〇日
上記被相続人の遺産相続につき、共同相続人である被相続人の妻〇〇〇〇、被相続人の兄〇〇〇〇、被相続人の妹〇〇〇〇、……(略)の相続人全員が遺産分割協議を行い、下記のとおり遺産分割協議が成立したことを証明する。
1.被相続人名義の下記不動産は被相続人の妻〇〇〇〇が相続する。
(略)
令和〇年〇月〇日
相続人 (住所) 東京都〇〇区〇〇2丁目3番4号
(署名) 〇 〇 〇 〇 ㊞
相続分譲渡をする
遺産分割協議が成立前であれば、相続人が持っている相続分は、他の相続人に譲渡できます。相続人から相続分を譲渡してもらい、『相続分譲渡証明書』を書いてもらえば、その相続人を遺産分割協議から除外できます。
相続分譲渡をした相続人は、遺産分割協議に参加する必要はありません。ただし、相続放棄をしたわけではないので、被相続人が負債を残している場合には債権者から請求を受けてしまいます。
相続分の譲渡は有償でもできますが、この場合には譲渡人にも相続税がかかります。相続分譲渡を考えている場合、他の方法と比べたメリット、デメリットも含め、専門家に相談した方がよいでしょう。
【相続分譲渡証明書の記載例】
相続分譲渡証明書
被相続人の氏名 〇 〇 〇 〇
最後の本籍 〇〇市○○町1番2号
死亡年月日 令和〇年〇月〇日
相続人〇〇〇〇は、上記被相続人の相続に関し、相続分の全部を〇〇〇〇に無償で譲渡致しました。
令和〇年〇月〇日
譲渡人 (住所) 東京都〇〇区〇〇2丁目3番4号
(署名) 〇 〇 〇 〇 ㊞
譲受人 (住所) 東京都〇〇区〇〇3丁目4番5号
(署名) 〇 〇 〇 〇 ㊞
遺産分割協議が成立しない場合には?
遺産分割協議をせず放置しておくデメリット
放置している間に次の相続が発生すると、相続人の数がさらに増えることにより権利関係が複雑となり、ますます手続きが困難になってしまいます。時間が経過すると、相続手続きに必要な書類が簡単に揃わなくなることもあります。
不動産の相続登記については、2024年(令和6年)4月から義務化されています。相続開始から3年以内に名義変更しないと罰則(過料)を受けてしまう可能性もあります。
【デメリット】
- 相続人の数がさらに増えることによって、ますます手続きが困難となる。
- 相続登記できないので、過料の支払いを課される可能性がある。
最終的には裁判所で解決せざるを得ない
相続人間で話し合いによる合意が難しい場合、家庭裁判所の遺産分割調停(または審判)で解決しなければなりません。裁判所に行くとなると、相続人全員にとって負担になります。話し合いに応じてくれない相続人がいる場合には、「調停や審判になるとお互いにデメリットになる」ということを説明し、協力をお願いしましょう。
早い段階で専門家に相談
相続人が多数のケースでは、戸籍を調べて相続人全員を特定するだけでも難しいですし、膨大な時間がかかります。早い段階で専門家に相談すれば、戸籍調査を任せられるほか、他の相続人とのコミュニケーションについてもサポートが受けられます。必要な書類も準備してもらえるので、手続きにかかる手間を大幅に削減できます。
また、相続人の中に認知症の人や行方不明の人がいる場合などは、遺産分割協議の前に法的な手続きが必要になります。このような場合でも、必要な手続きをとってもらえるので安心です。
まとめ
相続人が多数いる場合、遺産分割協議がスムーズに進まない可能性があります。相続人に連絡をとる前に、対策を考えておくのがおきましょう。
当事務所では、戸籍謄本の収集からお手伝いします。相続手続きや遺産分割協議でお悩みの方は、当事務所にご相談ください。
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